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September 30, 2005

実用と教養

 心理学の世界では「臨床心理のバブルももう終焉」という言葉がちらほら聞かれだしている。実際問題として,心理学で飯を食べるポストの拡大も,この辺りが一つのぷらとー(高原)かなあという感も感じないではない。
 それにしても臨床系の大学院の志願倍率は高いというし,心理学科の倍率も同様に高い。これは10年前でも大して変わらないのだが,その頃との大きな違いは,その当時多くの学生は,それはそれとして,といいながら民間や公務員に就職していったこと。これほどまでに「もっと勉強しようとする」学生は少なかった。
 その中でちょっと気になることは,学生自体が少しずつ変わりだしているかなあということ。「心理学」に興味を持つ学生が減っているなあという感触である。

 心理学科の倍率が高いのにと訝しがる向きも多いだろうが,実際一部の学生には,これまでの「心理学科の文化」が伝わらない場面にしばしば遭遇するのである。
 多くの学生は臨床系に興味があるからして,生理や認知などの分野に興味がない学生が多いのも昔と変わらない。しかし最近の学生は「もっと自分の研究に役立つことを教えてほしい」と求めてくる学生が増えた。また,興味のないものを「自分には要らないから」といって身につける気のない学生がちらほら出てきたなあと感じる。「院に行ったり,論文読むときには要るから」といって統計を分かってもらうように努力しても,「因子分析だけ出来ればいいんです」では始まらないと思うのだが。
 新しく研究をしたり,面接のコツをつかんだりという営みの中には,確かにその領域についてマスターすることも重要。けれど,違う領域の知識から,「使えるヒント」を引き出すくらいはできるといいけどなあと思う。何かのプロになる,というならば,できれば選り好みせず,世界中の知識を自分のものにするくらいの意気込みで身につけると,きっといいことがあるのでは。

 ここまできて考えてみると,社会自体が「実用」というテーゼに向かいすぎて,即効性のあるものだけを求めているのではないかとちょっと残念に思う。役に立つ,とか,儲かる,とか。それに徹するのも悪くはないが,もう少し幅広く,ゆっくりしてみるのもいかが。あと,「余計なもの」が後々役に立たないとも限らないだろうし。自分に要らないと思われた知識やスキルがあったために,研究であれ就職であれ役に立った事例はいくらでも。もちろん,大学の勉強とは一切関係ない職に就いた学生も同じ。

 役に立つかどうかはともかく身につけている知識やスキルを「教養」と呼ぶのなら,現代はまさに「教養の受難期」と言っていいのかもしれない。結果としてそれが社会や文化自体をやせ衰えさせるとすれば,勿体無ないと思うのだが。

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