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March 04, 2006

辛さ甘さの程度(再掲)

スキー帰りにカレー屋に寄った。そろそろこの記事もブログかと思う。


辛さ甘さの程度
 普段良く行くカレー屋さん(○○一番屋)。最近各商品の栄養価(カロリー)を表示するようになった。結構あるんだなあ、バクバク食べてると太るなあ、と思いながら見ていたところ。実はスパイスにも熱量があることが分かる。よくよく見てみると、結構不思議なことになっている。そのまま転載することがためらわれるので、何となく「似た感じ」で表現すると次のようなものである。


1倍 10kcal
2倍 20kcal
3倍 40kcal
4倍 60kcal
5倍 120kcal
6倍 135kcal
7倍 145kcal
8倍 165kcal
9倍 185kcal
10倍 250kcal

 これ、結構面白くはないだろうか。少なくとも、「同じ量だけスパイスを足している」訳ではないことが分かる。間違いなく10倍の辛さだけが「多い」のである。また4倍と5倍の辛さの間にも、かなりの開きがあるのではないだろうか。少なくとも、スパイスの量は「正比例」で増えているわけではないことが分かる。※1

 とはいえ、気をつけなければならないことがある。それは、スパイスの量を2倍、3倍すれば、辛さも2倍、3倍と増えるとは限らないことである。大体において、人間の感覚は小さな変化に敏感な範囲と、変化に気付かない範囲がある。ではこのスパイスの量は、人間が感じる2倍、3倍に合わせているのだろうか。それもちょっと疑問が残る。なぜなら「2倍、3倍」と辛さを正しく数値化できるとは限らないからである。試してみてほしい、水に砂糖を入れて、砂糖水を作る。薄い砂糖水から濃い砂糖水を作ってそれぞれ舐めてみて、「これはこっちより3倍甘い」と言えるだろうか。2倍の基準が曖昧なので、それはちょっと無理である。逆に、砂糖の量を2倍、3倍にして舐めてみればおそらくあるところから、「ただ甘い」ということになり、砂糖の量の差は気付かなくなる※2。

 ここまでくると、ひょっとすると反論があるかもしれない「じゃあ、『砂糖の1600倍の甘さ』とか言っている甘味料は嘘なのか」、なるほど、確かにステビアと言う甘味料は砂糖の1600倍の甘さだと言われている。こちらに関してはそれほど難しくない。できるだけ薄い溶液を作って、どのくらいまで薄めても甘いと感じられるかを測ればいいのである。例えば、100mlの水に砂糖を溶かして、多くの人が「甘い」と感じる最小の量が1gだったとしよう、1600倍の甘味料は、実は1/1600g溶かしただけでも「甘い」と感じられるのである。このように、感覚を感じる限界の値を「閾値(いきち:しきい値ともいう)」という。2つの物質の比較の場合は、こうやって測ることができるが、さっきの辛さに関してはうまく測れないのが実際である。

 そうすると、また疑問が出るかもしれない、「レトルトカレーやカレー粉の箱の裏にある。あの辛さの数字はどうやって出しているのか」。うーん、実際のところは分からないけれど、これは次のように考えることができる。
(方法1)それぞれのカレーを食べてみてもらって、どちらのカレーが辛いか評価してもらう。そうすると、1位からビリまでの順序が決まる(同順位ということもある)。これで一番辛いものに5、一番辛くないものに1と順位をつければ、辛さの段階が作れる※2。
(方法2)例えば辛さを決めるスパイスや成分を決めて、その量が2倍、3倍となったら「2辛」、「3辛」とする。こちらでもいいのだが、上にも述べたように、場合によっては4辛と5辛の間には辛さの差がなかったりする可能性がある。
 カレーの場合はおそらく方法1の方を使っているのだろうと推測される。なぜなら、これが一番簡単に計測できるから。したがって、スーパーでレトルトカレーを買う時には、「大辛」や「中辛」に惑わされないようにしたい。最近は、有名店のカレーなどがレトルトで売られるようになったので、その店では中辛だが、食べてみると相当きついケースも多いのである。

 このように、人間の感覚を測ることは結構難しい。辛さや痛みなどを物理的に計測する方法を、古くは「精神物理学」といった。厳密な手法で、心理学が生まれた初期から連綿と続く心理学の基本となる方法である。方法1で使ったような方法は、「官能検査」などともいわれる方法の1つで、より人間の「イメージ」を重視した方法といえるかもしれない。いずれにせよ、我々が簡単に口にする、「辛い」や「甘い」、つきつめて見ると結構面白いことが分かる。

 さて、先のカレー屋、どういう理由で辛さを決めているのだろう。とても興味深いとカレーをぱくついた昼下がりである。

※1 数学的には「非線形に変化」という。
※2 心理学ではウェーバーの法則とかフェヒナーの法則と呼ばれている。 
※3 数理・統計用語では、これを「順序尺度」という。順序尺度はあくまで比べた中での順位なので、例えばハウスの「5辛」とS&Bの「5辛」は同じであるとはいえない。これは東京女子マラソンの4位と大阪女子マラソンの4位が、同じタイムではないのと同様である。そして、「2辛」は「1辛」の2倍ということもいえない。

(初出:2003年11月2日)

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