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September 14, 2006

バス・クラリネット(再掲)

初出 1999年頃

バス・クラリネット

 世の中には、不遇な楽器があります。楽器として良い素質を持っているのだけれど、なかなかお目にかかれない。そんなタイプの楽器です。

 たとえば、ユーフォニューム。この名前を聞いたとたん「えっ?ユニフォーム??」とか「新しい金属の種類?」なんて反応は、ザラです。ところがこの楽器、チューバの仲間で、音の高さはほぼトロンボーンに近く、吹奏楽では非常に重要な役割を担っているのです。歌手にたとえれば、そう、ささきいさおさんの様なものです。「宇宙戦艦ヤマト」など、数多くの歌を歌い、誰でも歌声は知っているのに。「ヤマトの歌、ほら、あれって誰だっけ、歌ってるの」てな具合なものです。その筋(アニメファン)とかには有名なんですけれど...。

 同様の楽器として、バス・クラリネットが登場します。ほら、そこのあなた、どんな形か分からないでしょう。文字どおり、低い音のクラリネットなんですが、形はどちらかというとサックスに近い。黒くて長い管体と、銀色のラッパ(ベルとか朝顔という)が特徴的な楽器です。

 音はというと、これが結構使われているんですな。低くて渋〜い、こくのある音なんです。たとえば水戸黄門の中で。夜に弥七が忍び込むシーンとか、ガーシュウィンの一連の作品とか。グローフェの「グランド=キャニオン」ではソロまであります。でも脚光を浴びることはない。そんな楽器です。

 実は私、これ吹いてたんです。高校生の間。3年間。

 正直なところ、この担当になったときはショックでした。サックスとか華やかな世界にあこがれてたもんですから。あこがれのテレビ局に入社して、社員食堂に配属されるようなものです。

 でもこれに心奪われるんですね。本当に良い音です。

 これが割と脚光を浴びる世界があるんです。ジャズです。この世界には、サックスプレーヤーでこの楽器を得意とするかたがいます。エリック・ドルフィーとか、ボブ・バーグとか。その中でもテナーの若手、デビッド・マレイなんか非常によろしいですな。もともとサックスより音域が若干広い楽器ですが、この人にかかると軽く4オクターブは出てしまいます。高音なんて、本物のクラリネットより艶っぽいくらいです。

 ただこの楽器、いかんせん値段が高い。安くても定価で五十万は堅いんです。サックスで五十万と言えば最高級モデルが買えますし。トランペットならプレミア=モデルも買えてしまいます。私なんかも、欲しいと思いながら買えないんですね。昔のクレジットカードのコマーシャルにでてきた、ウインドウ越しに楽器を見て、ほし〜いと見つめる黒人の男の子のように眺めるだけです。この辺も、市民権の得られない理由かと、陰ながら心をいためるわけです。

 でも、これはお薦めですよ。地に足の着いた生活をお望みの方とか、男の背中に哀愁を漂わせたい方とか、C調なノリの日常に飽きた方とか。もう車とかそんなの買ってないで、一家に一本。是非ってくらいです。

 でも、日本の家々からこの音聞こえてきたら、ちょっと怖いかも。

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