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October 05, 2006

カツ丼学概論 第6講 茨城におけるカツ丼

「カツ丼学概論(講師:荷方邦夫・1単位・コア的科目)」

第6講「茨城におけるカツ丼 定性的研究の実際(1285773)」

 今回は筆者が20代のほとんどをすごした茨城県におけるカツ丼のフィールドワークについて紹介する

1 トンカツ王国茨城の「あいまいなカツ丼」
 もうだいぶ前の情報ではあるが、茨城県は10万人辺りのトンカツ屋の数が日本で一番多い県だそうである(今は定かではない)。確かに町のいたるところにトンカツ屋があり、その中身も多士済々である。茨城県は関東随一、そして日本でも有数の養豚県であり、「ローズポーク」という統一ブランド名で売り込みが盛んである。その意味ではトンカツの材料が潤沢にあるのだから、数が増えるのも無理はない話である。ちなみに養豚県といえば鹿児島や宮崎も有名だが、筆者の出身地熊本も含めて、トンカツ屋があまり多いわけではない。どうもこのトンカツ屋なるものは関東、あるいは東京に多いようであって、いわば関東の「名物」といってよい(ちなみにトンカツは大正期に東京の食堂で初めて供されたという説が有力である。)。

 トンカツの多いところカツ丼もまた美味し、と言いたいところであるが、現実はそうでもない。先週諸君に講義したように(第5講参照)、トンカツ屋のカツは厚く、またトンカツの存在感が秀でるように調理されている。これが必ずしも「卵・玉ねぎと飯・つゆとの総合芸術」であるカツ丼に相応しい形であるかどうかは別問題なのである。また名店を標榜するトンカツ屋はカツ丼を忌避するところも少なくない。つくば市で名店と称されるあるトンカツ屋はカツ丼どころか、いまやトンカツ屋のスタンダードメニューになりつつあるおろしトンカツもない。要望を出したくてもナイフ片手に寡黙に仕事する店主に言うと刺されそうで怖い(巨人が負けているとなおのことである)。カツ丼は必ずしもトンカツ屋と一心同体ではない。
 これに対して、カツ丼に暖かい眼差しをくべるのが蕎麦屋である(このカツ丼と蕎麦屋の関係については、第一講の歴史的考察を参考にしてほしい)。しかしこの関東の蕎麦屋はカツ丼にそばのつゆを流用する。淡白な蕎麦にきりっとあう鰹と醤油、味醂で立てたこのつゆは、カツ丼となるとやや一本気な印象を否定することが出来ない。また、玉ねぎに火を通さなければならない事情から、つゆは当然煮詰り辛くなる(標準語で言うと「しょっぱくなる」。。筆者は九州出身である)。関西に比べ関東のカツ丼につゆだくのものが少ない傾向があるように思われるのは、この辺りの問題と無関係ではないだろうと思われる。丼としてのカツ丼は、やはり卵とじ系の丼ものである親子丼などと親和性が高い。その意味では、親子丼文化圏の京都・関西の味付けとの親和性が高いようにも思われる。もちろんこの辺の趣味趣向については、個人差があるため一概には言えない。茨城におけるカツ丼は、自己の趣味趣向をいかに確定させるか、いわば自己のアイデンティティの確立なしには美味いカツ丼はありえないのである。このとき、多くの人の様々な意見を聞いて、あれもいいらしい、これもいいらしいと言ってカツ丼を食べ続けると、どのタイプがよいのか定まりにくい。味覚の発達を研究するE.H.エリックソン*1は、これを「カツ丼のアイデンティティ拡散」と呼んで、カツ丼通への発達段階における一種の危機的状況であると指摘している*2。

2 茨城県南におけるカツ丼の名店について
 そこで、美味いカツ丼を食べるためにはどうすればよいのか。茨城にはここで大きな問題がある。メディアが限定されるのである。
 茨城には、テレビ局がない。また、地域で強い発行部数を誇る地方紙がない。また、イタ飯屋やラーメンならば特集も組めるが、カツ丼で地元情報誌を埋めるためには、編集側にそれなりの努力もいる。そこで美味いカツ問屋を探すためには、細かな口コミのリサーチが必要である。まず自分のカツ丼の趣味をはっきりと伝えること、貪欲に食べ歩いて確認すること、これ以外に残念ながらないのである。
 筆者はカツ薄め、ややふんわりとした出汁の風味と、砂糖で甘くなりすぎず、かつ醤油で辛くならない、かつ卵が半熟で白身と黄身が分離して固まる程度のものが好きである。また、できれば三つ葉もほしいところである。それでいて1000円近くを払う気はない。というアイデンティティから、600〜800円のカツ丼を紹介したい。
 一つは土浦北インター近くにある「トンカツ、勝本」、もう一つは牛久学園線農林団地付近にある「どんぶりや」である。前者は780円、後者は600円である。両方ともややつゆだく、かつ三つ葉の香りあり、そして半熟の卵が飯にかかる雰囲気が秀逸である。欠点を言えば、前者はややつゆが一本気、後者はカツの揚がり方が油のせいかややチープというところがある。しかし満足感の高さは双方ともに高い。値段と味のパフォーマンスを考えれば、600円でここまでも、と思うくらいである。
 この2店のカツ丼が秀逸であることを確認したい場合、両店で食べてみることもさることながら、足繁く通ってほしい、別にカツ丼でなくともいい。他にもメニューは豊富なので通う価値もある。見てほしいのは、他の客である。この2店、客の3割程度がカツ丼をオーダーしている。メニューの数から考える比率としては非常に高い。非常に重要なポイントである。フィールドワークは、どの視点からデータをとるかによって、評価が大きく異なる。単に自分の舌に頼るだけでなく、他人の舌を利用するのも手である。
 かくして、茨城にも、良心的なカツ丼屋が存在することは確かである。ぜひ茨城のカツ丼を賞味してほしいことを提案して、本講義にかえることとする。

(宿題)外食をしたときに、その店のカツ丼の価格を控えて、自分で食べるか、他人が食べているのを見て、「価格とグレードが相応しいか」、主観的な感想でいいから評価をするように。レポートを提出した場合、評価に加味する。

*1 もちろん、そんな心理学者がいるはずはない。
*2 もちろん、そんな学説があるはずもない。あくまでぺダンティックな「シャレ」だかんね。

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