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April 23, 2007

カツ丼学概論 第7講 金沢におけるカツ丼文化の特徴 —そのオリエント性—

第12048回 日本カツ丼学会総会(金沢にて開催) 基調講演

金沢におけるカツ丼文化の特徴 —そのオリエント性—
  講師 荷方邦夫先生(百万石栄養大学文化学科准教授 Ph.D〔カツ丼学〕)

 おいでまっし(金沢弁で「ようこそおいでださいました」),ようこそおいでくださいましたことを歓迎いたします。百万石栄養大学文化学科の荷方でございます。本日はこの地金沢で当学会が開催されますにあたり,大会委員長であります私が基調講演をする運びとなりました。カツ丼ゆえ幾分脂っこい話もございますが(笑),日本におけるカツ丼文化の1つの視点として,この地金沢のカツ丼から見えてきますものをお話しさせていただきます。
 日本における食文化の地理的・歴史的考察はこれまでも沢山あります,単に関東の濃口,関西の薄口という単純なものから,フォッサマグナを分水嶺とした鮭・ブリ文化の歴史的展開など,その数は枚挙にいとまがありません。その中で当地金沢は,複雑な文化と歴史に裏付けられた多様なカツ丼文化を花開かせております。あとで申し上げますが,「食のオリエント文化」と形容すべき様相がこの地にはあるわけです。
 

 まずこちらの表をご覧ください。

表 金沢におけるカツ丼分布
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       トンカツ店  麺類店  洋食屋  その他食堂
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煮カツ形式    ○     △    △     ○
あんかけ形式   ×     ◎    ○     ×
ソースカツ    △     ×    ○     △
--------------------------------------------------------------------------

 ご覧の通り実にさまざまな業態の飲食店で多くのバリエーションがあることが分かっております。まずはそれぞれの形式における特徴からご説明申し上げましょう。
 はじめに煮カツ形式のカツ丼です。これは日本において最もポピュラーな形のものといって良いでしょう。金沢においてもカツ丼はこれを主流としております。特に金沢において絶大な人気を誇る「ぶんぷく(トンカツ店,スライド1)」はこの形式を採用しており,他のトンカツ店,あるいはデパートの食堂などでも採用されております。
 しかしながら,この形式をとらない別の方法が多く見られることを指摘せねばなりません。これが,カツ先乗せ具材後のせ形式,いわゆる「あんかけ形式」のカツ丼でございます。この製法は先にごはんの上にカツをのせておきまして,その後割り下でとじた卵をはじめとする具材を乗せる,ないしは片栗粉などであんかけ状にした具材を後でかける形式のものです。最近の研究では,大阪をはじめとする関西で比較的この製法が見られることが分かって参りました。金沢においては「お多福(うどん屋)」の一部の店舗,洋食屋として知られる「ニュー狸」,グリル中村屋などでこの製法が採用されております(スライド2)。洋食店ではこれを「洋風カツ丼」と言った呼称で説明する場合もあります。
 最後に,ソースカツ丼です。この製法についてはお隣の福井の「ヨーロッパ軒」が有名なのでございますが,当地金沢でもある程度の広がりを持っております。ソースカツ丼にもいくつかのバリエーションがございますが,金沢においては香辛料のきいたウスターソースをくぐらせるという意味で,福井のそれ,また日本のカツ丼の発祥と考えられております早稲田のヨーロッパ軒の流れをくむものでございます。中には,「キッチンすぎの実(洋食屋)」のように,煮カツ形式とソースカツ形式の2つを採用しているものもございます(スライド3)。また,最近ではソースカツ丼の亜種として,卵とじの代わりにオムレツを敷いて,その上にカツをのせるという製法も考案され,「めいぷるキッチン(洋食屋)」で提供されております。

 いかがでしょうか,1つの町で複数の形式が共存するというのは,この地が文化の交流点であり,複数の文化の影響を受けているということを端的に表しております。この傾向は,他種の食品でも同様に見られます。
 たとえばラーメンについては,金沢において「金沢ラーメン」という特徴をもつラーメンがありません。醤油・塩・豚骨など,さまざまなラーメン店が出店し,最近では関東の流行をとらえた「豚骨醤油系」が人気です。また,当地のデフォルトともいえる「八番ラーメン」は,関東ではむしろ「タンメン」とカテゴリーされる食品です。このことからも,「食文化のるつぼ」としてconfusioniseされた特徴がよく分かるかと思います。
 さて,あんかけ形式が相当に食い込んでいる金沢において,なぜトンカツ屋が特徴的に煮カツ形式を優先させているか,この件に関しては,そもそもトンカツ自体が「関東」の文化に根ざしているのではないかと私は仮説を立てております。これは,関西で比較的発見されるあんかけ形式が,同じく関西に指向する「うどん屋」を中心に見られることからもある程度説明ができるかと思っております。
 これらの事実から私考えますに,金沢は東西の食文化の接点であり,オリエント文化に類似した様相を呈しておるのではないかと言えましょう。いずれにせよ,当地はさまざまな文化を受容する,まあ言い換えれば若干節操がない(笑)のかもしれませんが。結果として選択肢の広い食行動を支えているという上で,実に興味深い事例としてここに報告させていただく次第でございます。

 それでは,私の講演をいったん引き取らせていただいて,質疑応答に移らせていただきます。ご静聴ありがとうございました(拍手)。

(注)
1, いつも言っているが,これはペダンティックな「シャレ」なんです
2,「非煮カツ」形式が関西でみられるという点については,先日関西の某テレビ局の取材からある程度言えるものと思われる。また,本ブログの過去ログ(正確には「旧荷方の『不定記』」)でも同様の指摘を行っている。

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