それぞれ見落としてはならない所がある(長文注意)
巷は選挙の話題で(ちょっとだけ)盛り上がっているようだが、こちらは学期末でバタバタである。そんな中で、気になるニュースが飛び込んだ。民主党の教育に関するマニフェストである。
今回取り上げたいポイントは次の2点。
・高校授業料の原則無償化
・大学における教員養成の6年化・1年間の教育実習
前者はこの党が得意とする「一律~化」で、現在ほとんどの生徒が進学する高校を、事実上義務教育と同じ扱いにするというものである。個人的には反対で、教育に関する投資が可能な家庭には「応分の負担」をお願いするのが筋なのではないかと思う。また、これが実施されると、現在でもまだ存在する「中卒」で社会に出る若者にとっては新たな格差を生むことになってしまう。基本的に、支援を要する個人に対して手厚い支援を行うことが重要なのであって、この施策にはやはり同意しかねるのである。
後者については、教員になるために医歯薬系と同程度の水準を保証しようとするものであるが、これについても突っ込みどころはある。
まず第一にいえることは、これを実施することが可能な教育機関は「教育学部」中心になることである。多くの教員は教育学部出身者が多いのだが、実際には法学部や理学部、音楽学部や美術学部など「専門学部」出身の教員も少なくない。反対に高等学校の教員免許だけとると、教育学部よりこれらの出身者が重視されるくらいである。高校教員には「東大出」とか「京大卒」のような、一見教員とは無縁そうな大学出身者がみられることがあるが、これは大学で専門の課程と同時に「教職課程」をあわせて履修した学生が教員になっているのである。
芸術や体育ではこの傾向は顕著で、演奏家やプロ選手と比べても遜色がない教員も多いのである)。
これらの出身者は、もともと専門を活かした道に進もうとするその1つとして教員を選んだのであって、初めから教員だけを志望しているわけではない。ただ「どこかで」教員に目覚めて勉強し、きちんと(採用試験に受かった「ちゃんとした先生」である。もちろん弊害もまったくないわけではないが、これらの先生も彼らの特色を活かしたところがある。しかし、今後6年制教員養成が始まると、これらの経路から教員になれる可能性は大きく制限される。民主党の関係者がこの辺の事情をきちんと理解しているのか本当に疑問である(実際には学校教員経験者の議員も多いはずなのだけれど)。
そして、教育実習を1年にするということによって、教員のみを希望する学生以外実習にはいけなくなることになる。それはそれで良いことではないかと思う人も多いだろうが、実際にはこれらの学生も採用試験に不採用になり、窮地に立たされる可能性があるのである。そのリスクのために、他の進路も探りながら教員を目指すということが出来ないなら、「賢い」学生はかなり教員から逃げてしまうのである。反対に、実習まで受けようという学生が全て教員になるとしたら、それはそれで問題だということに気づかないのであろうか。
そもそも教員の質を向上させようという試みは昔からあって、大学院まで行って学んだ学生に「専修免許状」を与えて優遇しようとしたり、教職大学院を作ったりといろいろあるのである。それでもなお「6年制」にする前に、この実質的な「6年制」があまり機能していないかもしれないことを良く考えてみてもいいだろう。
この施策についていえることは、「総論ではよさそうに見えるが、個別の事情を一つ一つ見ると、問題満載である」ということであろうか。だから私はどうしてもこの施策を支持できないのである。
The comments to this entry are closed.
Comments
朝日新聞に投稿されていたのですね。採択および掲載おめでとうございます。写真も拝見しました。
Posted by: いこま | September 18, 2009 09:17 AM
>いこま さま
ご覧下さりありがとうございます。
Posted by: nikata | September 19, 2009 01:06 PM